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「兄弟」の呼称について -綱領-

2016.11.05 (Sat)
信徒は互いを兄弟と呼ぶべきか


山上の垂訓をはじめキリストは「兄弟」の語を何度か用いるが、律法契約にある同朋の意味で使用している。(マタイ5:23・47)
これはイエス・キリストが律法に従うユダヤ教徒であったことを反映している。(ガラテア4:4)
イスラエルはアブラハムの嫡流としての約束の相続が関わる神との格別な立場にあり、律法契約はその選民としての更なる絆を形作って、それぞれの部族にあっても連帯感を持ち、互いを「兄弟」と呼んでいたことを背景としている。

聖霊降下のシャブオート後のイエス派内では、異邦人改宗者も七人のディアスポラへの援助を担当したディアコノイに含まれており、同朋の扱いを受けている。(使徒6:5)
この情況はイエス派内に在って聖霊降下後コルネリウス前のエクレシアでも変わらず(使徒7:2)、ペテロ訪問の時点でも無割礼のコルネリウスは「神を畏れる者」[φοβύμενος]とはされているが「兄弟」[ἀδελφῶς]とは呼ばれていない。無割礼では、律法に従う者と看做されないからである。(使徒11:1-3)従って、同朋とは契約と律法遵守が関わることがわかる。
一方、コルネリウス宅を訪れたペテロの仲間は「兄弟」と記されているが(使徒10:23)、彼らは明らかにユダヤ教イエス派であった。(使徒11:12)

聖霊降下の後のイエス派内に於いても当面の間はユダヤ教として血統のイスラエルを「兄弟」また「同朋」とする習慣(出埃2:11)は強く残っており(エステル10:3/ネヘミヤ5:8)、そこに無割礼の異邦人で聖霊に預かる人々が増えるに従い、西暦49年頃に行われたエルサレム使徒会議を招来している。

その間、無割礼異邦人聖徒をユダヤ人聖徒らがどう見做すかについて不安定な時期があり(使徒13:26)、ヘブライスタイは、異邦人信者は改宗者と同じく割礼を受けなければ「救われない」と主張している(使徒15:1)が、これは敬虔で聖典に忠実なユダヤ教徒としてはごく自然な発想と言える。(創世記17:10-14)

しかし、エルサレム会議でのヤコブの裁定は、諸国民が無割礼のままで、当時のユダヤ人主体であったエクレシアに交わることを認め、ユダヤ教のシュナゴーグでの「神を畏れる者」フォボメノイ[φοβούμενοι]としての参加条件を課すだけに留めた(使徒15:29・20-21/21:24-25)。
この画期的な裁定の理由は、聖霊の降下が無割礼のままの異邦人に臨んだこと(使徒15:12・28)、またペテロは律法契約そのものを守らせる必要のないというところまで踏み込んだ発言をしていることによる(使徒15:8-10)。
こうして、割礼の問題を通じて律法契約下での同朋関係から、新しい契約下での同朋関係へと初代の弟子らの中に新たな絆を築いて行く道筋が付けられている。

律法の終了については、後のパウロ書簡にも表れるように最終的に律法の無効が宣せられ(ガラテア3:23-25/コロサイ2:12-14)、更にヘロデ神殿の破壊によって律法祭祀などが不能となって律法の無効は確定的となってゆく(ヘブライ8:13)。
その間、既に『新しい契約』が発効し始めていたので、実質的にキリストの死は律法の『犠牲を廃した』と言える。(ダニエル9:27/ヘブライ10:2-4)

パウロはエルサレム会議の後に、書簡の中で異邦人聖徒も含めて『神の子』であることを記して(ローマ8:14)おり、『キリストの血によって』双方の民の間の『隔ての壁が取り除かれた』とも書いている(エフェソス2:11-18)。異邦人聖徒も『聖なる民』であり、『神の家族』であるとも述べる(エフェソス5:3/ガラテア3:28-)。

神を創造者の意において『父』とする概念はキリストの当時にユダヤ人は有していた(マタイ5:16/ヨハネ8:41)ものの、『神の家族』となるという概念はそれまでになく、「神の家の子となる」とは律法に従うユダヤ教の隷属を超える自由人となることを意味するとキリストは予告していた(ヨハネ8:34-36)。
キリストは神を専らに『父』と呼ぶように『神の子』であったが、信仰する者をその血で『新しい契約』に招いて贖い、聖霊の印を以って(コリント第二5:5)その『兄弟』として弟子らを自らと同じく神を父とする立場に立たせた。(コリント第一1:22-24・6:11)

パウロの書簡では、出自に関わり無く『兄弟』(アデルフォス[αδερφός])といえば『聖なる者ら』を指すことがほとんどを占めている。そこにはユダヤ教のようにイスラエル同族と「改宗者」(プロセーリュトス[προσήλυτος])を区別する(使徒13:43)姿勢はない。彼は無割礼の異邦人であっても聖霊が顕現している信者をも同朋として受け入れ、彼らが『召し』を受けた者であり(コリント第一1:26)、異邦人を含めた彼らの『市民権(ローマ市民権を含意)は天に在る』とも記している。(フィリピ3:20)

ペテロは非ユダヤ人に向けて書簡を書いており(ペテロ第一2:10)、その諸国の人々に向けて『真実の兄弟の情を得た』と書いている(ペテロ第一1:22/第二1:7)。また『すべての兄弟ら』との一体性も説いている(ペテロ第一2:17)。
これら異邦人の『兄弟』もすべてが文脈から『聖なる者』であることはパウロ書簡同様に明瞭に見て取れる。(ペテロ第一2:5・9/第二1:10)

またパウロは、聖餐を示して『パンは一つであるから、わたしたち多くの者も一つの体なのである。なぜなら、わたしたち皆が一つのパンに与るからなのだ。』と述べる。(コリント第一10:17)
また、『わたしたちも数は多いが、キリストに結ばれて一つの体を形づくっており、各自は互いに部分である。』(ローマ12:5)
そこで外地のエクレシアでは、キリストの体に預かるところの『新しい契約』に属する聖霊を介した同朋関係の意識が支配していたであろうことが見える。

しかし、ユダヤでは事情は異なっていたことがヘブライ人の手紙から観察される。
この書簡では、ヘブライストのイエス派聖徒に対して、異邦人の聖なる者らを『兄弟と呼ぶことは恥じない』ようにと促している(ヘブライ2:11)。同時にこの句は『律法に熱心な』ヘブライストの弟子ら(使徒21:20)が離散のヘレニストと異なって、異邦人聖徒を「兄弟」と呼ぶことに躊躇や羞恥があったことを示している。
この過渡期に在って、律法体制下の同朋関係と、聖霊による同朋関係のせめぎ合いが存在していたことも新約聖書は示唆している。(黙示2:9)

またこの句は、イスラエルの血統にあり、律法が様々に規定した『同朋』の範囲を超えるよう説き勧める言葉であると同時に、パウロの論議に従って、異邦人が『キリストの血によって近しい者となった』(エフェソス2:13)のであり、その身分は『キリストの兄弟』(ローマ8:28)にして『神の子』(ローマ8:14)であることに沿う。
またヘブライ人の手紙では、『聖なる兄弟』という言葉も使われ、『天に召される人々』であることも明らかにされている。(ヘブライ3:1)

ヨハネは、『兄弟』が『神から生まれた者』であるとしている。(ヨハネ第一5:16-18)
それはヨハネ福音書にある『水と霊から生まれる』『神の王国に入る』者のことを意味しており(ヨハネ3:5)、水の浸礼の後に聖霊をも受ける者を指している。(使徒2:38)

『聖なる者ら』が、人類に先立ってキリストの贖罪を受けた状態に入っていたのである(ヘブライ8:12)ゆえに、神に向かって『アッバ』と呼びかけることが(聖霊によって)できた(ローマ8:15)のであれば、その立場はキリストに並ぶ程に高いものである。(ヘブライ2:11・17)

そこで、聖霊の注がれていない者同士が『兄弟』と呼び合って当時にちなむことは、却って『聖なる者ら』の類い稀な立場を卑しめることになり、それは神の前に謙虚な姿勢とは言い難い。使徒時代にも『偽兄弟』はパウロらの遭遇した危険のひとつに挙げられており(コリント第二11:26/ガラテア2:4)、使徒後教父の時代にも、聖霊の注ぎを偽る者らが居たことを伝える資料も残されている。(ディダケー11:7/牧者11:13)

殊に、終末の裁きで『羊を山羊から分ける』に際しキリストの『兄弟ら』が分離の媒介となることをキリストは明言している(マタイ25:40)事を考慮するなら、その呼称を信徒が用いることは、終末に於いて人の裁きに関わる『偽兄弟』の謗りを受ける危険も孕むことになり兼ねない。(ガラテア2:4/黙示2:9)
<これは『不法の人』や「脱落聖徒」との関連が生じるのかも知れず、その場合に、真実の聖霊なく兄弟を名乗るなら、終末に於いて人々を『背教』へと惑わす罠と自ら変じる危険もある>

『兄弟』と呼ばれる聖徒以外のあらゆる人が、裁きを前にした罪人であることを謙虚に認めなければ、『神の王国』による贖罪を必要としていることを示せないであろうことは理の当然であり、神の経綸やキリストの犠牲への敬い無く、『罪』なき者のように振る舞うべき理由はない。

したがって、キリスト教信奉者の間で『兄弟』また『姉妹』の呼称が親近感や団結性にどれほど効用があるとしても、上記のような認識を持つなら、神との契約関係という圧倒的に重要な事柄がそこに関わっている以上、これらの呼称を聖霊の注ぎのない信者間で用いることは憚られるに違いない。




「誰がアデルフォスと呼ばれたか」




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